相次ぐ閉店発表と最後の東京拠点の消失
アメリカ発の人気アイスクリームショップ「コールド・ストーン・クリーマリー」の日本撤退が加速しています。
2025年4月28日には東京唯一の店舗となる原宿店が閉店、さらに5月6日には佐野プレミアム・アウトレット店も閉店が決定し、日本国内では三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島店のみが残る状況となります。
かつては全国34店舗を展開し、「歌うアイス屋さん」として一世を風靡したブランドが、なぜここまで縮小してしまったのでしょうか。
閉店の理由と20年にわたる日本での歴史を詳しく探ります。
コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンは原宿店を2025年4月28日に閉店すると発表しました。
2023年6月にオープンしたばかりの同店は「トーキョー」をテーマにした装飾が特徴で、表参道から一本入った通りにコンパクトな都市型店舗として展開されていました。
ファサードにはカタカナで「コールド・ストーン・トーキョー」と書かれたのれんや、東京タワーなどを描いたちょうちんが飾られ、東京らしさを演出していました。
この閉店により、東京都内のコールドストーン店舗はゼロとなります。
さらに栃木県佐野市の佐野プレミアム・アウトレット店も2025年5月6日に閉店が決定しており、日本国内では三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島店(三重県桑名市)のみが残ることになります。
閉店を惜しむファンのために、原宿店では「グランドフィナーレ スペシャルメニュー」として、チョコレートアイスをベースにした「フィナーレ チョコレート デヴォーション」と、イチゴやバナナなどのフルーツを使用した「フィナーレ ショートケーキ セレナーデ」の2種類(各780円、テイクアウトは842円)を提供しています。
特に「ストロベリー ショートケーキ セレナーデ」はマンゴーなどを追加して「豪華にした」限定メニューとなっており、購入者には同店で閉店まで使えるアイスクリーム半額チケットも進呈されています。
コールドストーンの歴史と日本市場での20年
アメリカ発祥の革新的アイスクリーム体験
コールド・ストーン・クリーマリーは1988年、アメリカのアリゾナ州で第1号店をオープンしました。
その特徴は、マイナス9度まで冷やした石(コールドストーン)の上で、スタッフがアイスクリームやフルーツ、ナッツなどの「ミックスイン」(トッピング)を目の前でミックスするパフォーマンス型のサービスにありました。
さらに特筆すべきは、スタッフが歌いながらアイスクリームを作る「歌うアイス屋さん」というエンターテイメント性の高いコンセプトでした。
日本上陸と最盛期
日本市場には2005年(平成17年)に上陸し、新しいアイスクリーム体験として多くのメディアにも取り上げられ話題となりました。
確認できる限りでは、2012年4月時点で北海道から福岡県まで16都道府県に計34店舗を展開するまでに成長していました。
ホットランド傘下への編入と経営変化
2014年1月には、たこ焼きチェーン「築地銀だこ」を展開するホットランド(東京都中央区)が買収し完全子会社化しました。
その後、2019年にはホットランドに吸収合併されています。
ホットランド傘下に入った後の2016年3月18日付の日経MJ報道によると、コールドストーンは「外販主体に転換する」方針を打ち出していました。
「買収後は同業のアイス専門店が競合だったが、コンビニやスーパーなどで売る高級アイス販売が急増し苦戦していた」一方で「アイスキャンデーなどの外販は好調」だったためとされています。
この時点で店舗数は2014年12月時点の34店から27店へと減少していました。
コロナ禍以降の急速な縮小
新型コロナウイルスの流行が始まった2020年には、2月に5店舗を閉鎖したのを皮切りに、2021年9月30日のルミネエスト新宿店(東京都新宿区)閉店まで、13店舗(うち1店はコールドストーン・クリーマリー・サンド)が閉店しました。
大都市圏からの撤退が進み、現在では日本全国でわずか3店舗となっています。
閉店の理由を探る:明かされない公式見解と考えられる要因
公式発表は「非公開」
コールドストーン・クリーマリー・ジャパンは原宿店の閉店理由について「非公開」としており、具体的な説明は行っていません。
運営元のホットランドも2021年11月の取材に対し「今回は回答を控えさせていただきたく存じます」と回答を避けています。
考えられる閉店要因
公式発表はないものの、検索結果や業界動向から考えられる閉店要因はいくつか存在します。
1. 高級アイスクリーム市場の競争激化
2016年の報道にもあるように、コンビニやスーパーで販売される高級アイスクリームブランドが急増し、店舗型のアイスクリーム専門店が苦戦する状況がありました。
ハーゲンダッツをはじめとする高級パッケージアイスの普及により、わざわざ店舗に足を運ぶ必要性が低下した可能性があります。
2. コロナ禍の影響
2020年以降の新型コロナウイルス流行は、対面サービスを特徴とするコールドストーンにとって大きな打撃となりました。
この時期に多くの店舗が閉店していることから、感染対策や客足の減少が経営に影響したと考えられます。
3. 体験型サービスの限界
「歌うアイス屋さん」というコンセプトは当初は目新しさがあったものの、日本市場では長期的な差別化要因として機能しなかった可能性があります。
また、一部の顧客からは「歌が恥ずかしい」「歌わないでほしい」といった声もあったことが示唆されています。
4. 商業施設立地への偏重
残存店舗がアウトレットモール内に集中していることから、通常の商業地での収益性に課題があった可能性があります。
特に都心部の高い家賃や人件費に対して十分な売上を確保できなかったことが考えられます。
5. 運営企業の戦略変更
ホットランド傘下に入った後、外販主体への転換が試みられていたことから、店舗展開よりも商品供給ビジネスにシフトする戦略変更があった可能性もあります。
残された最後の砦:ジャズドリーム長島店の展望
佐野プレミアム・アウトレット店も閉店すると、日本に残るコールドストーン店舗は三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島店(三重県桑名市)のみとなります。
なぜこの店舗だけが残るのかについての公式発表はありませんが、立地特性や集客力の違いが影響している可能性があります。
ジャズドリーム長島は大規模なアウトレットモールであり、名古屋からのアクセスも良く観光客も多い施設です。
また、近隣にナガシマスパーランドがあることから、家族連れの来場者も多く、アイスクリーム需要が安定している可能性があります。
しかし、この最後の1店舗についても今後の存続は不透明です。
公式サイトでは「今後ともコールド・ストーン・クリーマリーは、お客様を大切に、Happy Creamery体験をご提供し続けられるよう、全力で励んでまいります。
みなさまの笑顔にまた会えますことを、心より楽しみにしております」とメッセージを発表していますが、日本市場での長期的な展開計画については明らかになっていません。
日本のアイスクリーム市場の変化と体験型店舗の今後
コールドストーンが日本市場で縮小を余儀なくされた背景には、アイスクリーム市場全体の変化も影響しています。
消費者ニーズの多様化
コンビニやスーパーでの高級アイス販売の増加に加え、国産ジェラート専門店やクラフトアイスのブランドが増加し、消費者の選択肢が広がっています。
価格帯やフレーバーだけでなく、健康志向や素材へのこだわりなど、消費者ニーズが多様化している中で、パフォーマンス特化型のコンセプトだけでは差別化が難しくなっています。
SNS時代の体験価値の変化
2005年の日本上陸当時と比較して、現在はSNS映えする食体験の重要性が高まっています。
店員が歌うパフォーマンスよりも、見た目の美しさや写真映えするビジュアル、ユニークなフレーバーの組み合わせなど、異なる価値基準が重視されるようになりました。
外食産業全体の構造変化
コロナ禍以降、テイクアウトやデリバリーの普及が進み、その場で消費することを前提としたビジネスモデルの見直しが迫られています。
コールドストーンの特徴である「その場で石の上で混ぜる」という体験は、テイクアウト文化との相性が良くなかった可能性もあります。
コールドストーンから学ぶ海外ブランドの日本展開の教訓
コールドストーンの日本市場での20年間は、海外発のフードサービスブランドが日本で長期的に成功するための教訓を提供しています。
1. 初期ブームを持続的成長に転換する難しさ
日本上陸時には多くのメディアに取り上げられ注目を集めたコールドストーンですが、この初期の話題性を持続的な顧客基盤の構築に転換することができませんでした。
目新しいコンセプトが一時的な人気を生む一方で、長期的な顧客ロイヤルティの獲得には別の価値提案が必要だったと考えられます。
2. 日本市場に合わせた進化の重要性
「歌うアイス屋さん」というコンセプトがアメリカでは受け入れられても、日本の消費者文化や価値観に必ずしもマッチしなかった可能性があります。
日本市場特有のニーズや文化的背景を理解し、適応していくことの重要性を示しています。
3. 立地戦略の見直しの必要性
最後まで残った店舗がアウトレットモールに集中していることから、立地選定と出店モデルの重要性が浮き彫りになっています。
初期に都心部を中心に展開していたものの、最終的にはより観光・レジャー性の高い商業施設に収束していった経緯は、業態に適した立地戦略の重要性を示唆しています。
終わりに:消えゆくブランドが残すもの
「コールド・ストーン・クリーマリー」が日本市場からほぼ撤退する形となった今、多くのファンがSNSなどで閉店を惜しむ声を上げています。
一時代を築いたアイスクリームショップの縮小は、日本の外食産業や消費者の嗜好の変化を映し出す鏡でもあります。
原宿店でのグランドフィナーレ期間に足を運び、最後のコールドストーン体験を楽しむファンも多いことでしょう。
マイナス9度の冷たい石の上でミックスされるアイスクリームと、スタッフの歌声が織りなす独特の体験は、日本のアイスクリーム文化の一ページとして記憶に残るでしょう。
コールドストーンの日本市場での歴史は、海外ブランドの日本展開における成功と挑戦の両面を示す事例として、今後も多くの示唆を与え続けるはずです。
最後の1店舗となる三井アウトレットパーク ジャズドリーム長島店が今後どのような展開を見せるのか、また日本市場での再展開があるのか、コールドストーン・クリーマリーの今後に注目が集まります。
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